春の夜 ひいながたり/そらの珊瑚
した。
「そう、かもしれませぬ」
恥ずかしそうに姫は頬を赤らめた。
「でかした。でかした。白酒で乾杯じゃ」
既に顔を赤くしている左大臣も、無礼講だと、さらに杯をあおった。
「ねえ、官女、ウエディングドレスとやらを着るのを手伝っておくれ」
姫の言葉に官女は言った。
「それはおやめになったほうがよろしいかと存じます。このように薄いお召し物は、お身体を冷やしますゆえ、お子にさわったら大変でございます」
「そうなの。残念。それじゃ、来年まで、おあずけね」
その時、階段を誰かが駆け上がる音がした。ぼんぼりの灯りがふっと消された。
「綾! 赤ちゃんが生まれたぞ。綾はお姉ちゃんになったんだ」
入ってきたのは、綾ちゃんのお父さんだった。雛飾りの横で寝かされていた綾ちゃんは、眠そうにうっすらと眼を開けた。
「弟だよ。今度は武者人形を買わなけりゃあな」
「……そのおにんぎょうも、おしゃべりするの?」
「人形がしゃべる?」
お父さんは、おおかた綾ちゃんが寝ぼけているのだろうと思った。
春の夜。次第に明けて、白い月が空に浮かんでいる。
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