思い出の痛みは嘘になる/ホロウ・シカエルボク
ろだったと思うわ。そんなに汗をかいていた記憶はないから。カウンターの一番奥で、見なれない若い男がひとりで飲んでいたのよ―まあ、あたしより若いのなんてきっとあの店にはいなかっただろうけどね。それであたし、なんだかめずらしいなと思って、そいつに話しかけたのね。あなた見かけない顔ねって。そしたら、なんだかぼんやりと自分の飲物(ジンのロックだった気がする)を見つめながら、最近このあたりに越して来たんだ、って言うのね。それであたし、どこに住んでるのって聞いたら、その店からほど近い安ホテルの名前を言ったの。だからあたし、もしここにしばらく住むつもりならお部屋紹介してあげられるかもって、ちょうどその若い男の隣に
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