水島英己「小さなものの眠り」を読んで 〜引用を生きる〜/中川達矢
こ」にいた書き手自身に対して使う「へ」であると区別できるだろう。この詩集におけるサブタイトルに用いられた「へ」は無論、後者である。だから、「島尾敏雄の場所へ」の後に言葉を補うとしたら「行った」となり、島尾敏雄の場所へ行った記録を詩として残していると言える。ただ、これまで述べてきたように、それはただの記録や日記なのではなく、歩き、立ち止まり、過去と現在を結ぶというプロセスを経ているからこそ詩が生まれている。そして、「島尾敏雄の場所」に限って言うならば、加計呂麻島という地名があるにも関わらず、水島さんはそれを「島尾敏雄の場所」と言い換えている。島尾敏雄と大して縁がない私にとっては、加計呂麻島は地名とし
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