水島英己「小さなものの眠り」を読んで 〜引用を生きる〜/中川達矢
 
としての、または、概念としての加計呂麻島でしかないが、水島さんにとっては、加計呂麻島が「島尾敏雄の場所」としての価値を帯びて見えてくるのだろう。そうした価値を見出しているからこそ、その場所が積み上げてきた歴史(場所性)である過去と現在に生きる水島さんが結びつき、詩が生まれている。ただ、そのように生まれてきた詩は、現在にあるとも言えるが、過去と不可分に結びついており、現在であり過去でもある、または、現在ではなく過去でもない、どっちつかずの迷いの場所をさまよっている。そのさまよいこそが、この詩集の魅力ではないだろうか。
 汽水域は、どっちつかずのさまよいの場所である。どこからがこちらの水で、どこからがあちらの水かの区別がつかない場所。

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