水島英己「小さなものの眠り」を読んで 〜引用を生きる〜/中川達矢
 
で、現在にいる語り手は自らを過去の場所や人物と結ぶことができる。
 
 歩き、立ち止まり、過去と現在を結ぶこと。それらがこの詩集における根幹であるが、ただ、この行為はあくまでも語り手の人為的な行為に過ぎない。話を初めに戻すならば、「水と水が出会うところ」である汽水域は自然の業である。そうした自然であり、場所に関しては、水島さんが「ノート3」と題したあとがきに思いを記している。

 「歩きながら考えたことがある。場所と問題、場所と主題というようなこと。(中略)、置き方の問題もあろうが、まず場所の場所性ということを第一にし、そこに君の主体や問題などをありのままに置いてみること、そこから出発した
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