岸田劉生「写実論」を読み解いて考える、批評とは何か/中川達矢
 
」という言葉に劉生はどのような思いを込めているのだろうか。劉生はたびたび、真善美を批評の言葉として用いる。これらは言わば、プラトン的イデアの世界であり、言わばあるべき姿、理想の姿を指しているのだろう。しかし、イデアは、目に見える世界にあるのではなく、目に見えない世界にある。これもまた劉生がたびたび述べる、有形・無形というキーワードに即していると言えるだろう。つまり、オリジナルやコピーの軸で絵画を捉えるのが「事実」であり、その軸に捉えきれない何かが「真実」と言える。では、「真実」とは何であるか。
 
「『真実』はすなわち美である」p.82
 「この『真』を余所にして、自然の形に美はない。元来自
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