岸田劉生「写実論」を読み解いて考える、批評とは何か/中川達矢
 
だと思われる部分を引用し、劉生の「写実論」についての考察を終える。

 「むろんこの唯心的領域のみでなく、写実的美を追うときでも、この作品と対象との美の比較がなくては美を作に籠らすことはできない。手法というものは元来美でもなんでもないものだが、『内なる美』がそれを統一し、美に適うように組立てるのである」p.95

 「たとえ物の美の描写は乏しくなっても、精神が実在を借りている以上、その精神も一つの実在である。客観的に肉眼を通じて視られるものである。それを写すのであるならば、その道はやはり写実と言い得る。物質や物質の美のみが実在ではない。物があればその精神もある」p.97

 「作家にと
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