岸田劉生「写実論」を読み解いて考える、批評とは何か/中川達矢
 
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 この指摘は言わば、自然物への賛美だろう。コピーとも言える作品にもまた、オリジナルとなる風景の「質の美感」が求められると言う。何故、劉生がこのような議論を展開しなくてはならなかったのか。それは次の点からわかるだろう。

 「触感は既に目に見えているようで見には見えない無形な感じではあるが、それを表現しようとして起る愛感はさらにその無形な域に加わって得た一つの心を加える」p.91

 触感は、劉生が重要だとしていた無形な域および「心の問題」と関わっている。
視覚<触角という構図が劉生にはあり、視覚は言わば「事実」の領域であり、オリジナルとコピーの問題であり、触角は言わば「真
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