岸田劉生「写実論」を読み解いて考える、批評とは何か/中川達矢
 
象の視覚的全部を美とし美化するのが写実の道である」p.89

  しかし、劉生はそうした風景と作品の視覚的要素の議論から、触覚的要素へと話を進める。正直、私にとってはこれが意外な点だと思えた。

 「写実ということの意味を知るには質の美が写実の土台となることを知らねばならない。この道を通ることによってさらに深い写実としての美術的領域に至るのが写実の道である。
この質の美感は、物質またはその現象そのものの美化であって、それは主に、触感の造型的表現ということができる。
(中略)
かくて、乾いた土はほろほろと、草や樹木は土から生え、茶碗は打てば音がするごとく、持てば冷たく表現される」p.9
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