岸田劉生「写実論」を読み解いて考える、批評とは何か/中川達矢
 
完成する。自然物がただあるだけではなく、画家(の内なる美)がただいるだけでもなく、その両者の一致が芸術のためには必要になるのだ。写実は単なる風景の記録ではない。それは、風景の記録であり、また、画家の内なる美の記録でもある。だからこそ、写実もまたオリジナルとなりうるのであり、劉生が「事実」ではなく「真実」を重んじている理由がここに見受けられるのではないだろうか。この後に続く議論は、このことの繰り返しに過ぎない。

 「写実の道の特質は、外界の形象と内なる美とが一致して、外界の形、すなわち美となる点にある」p.88
 「外界の形象をさながらに生かすことによって『内なる美』を生かすこと、また形象の
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