岸田劉生「写実論」を読み解いて考える、批評とは何か/中川達矢
 
。自然物を描くということは、どういう自然物を美とするかという画家の選択を伴う。そうした選択の力を養うこと、持つことが「内なる美」であり、写実におけるauthorityである。

 「ただこの模写する本能と、自然物によって誘発された、内なる美(または装飾)とが一致するときにそこに芸術が起因する。この模倣性と、自然物によって誘発された内なる美とが一致して、さらにそれが有機的に生きて来ると、すなわち写実の道となる」p.85

 この箇所に、劉生が述べる写実論が集約されているだろう。画家は機械ではない。自然物をただ模写するだけではない。自然物(外)⇔内なる美(内)の一致が果たされた時に、芸術が完成
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