動物園(2)/Lucy
象
ふるさとの草原も夕日も君は知らない。君の母親も父親もふるさとを見たことが無いからその広大さも見事さも話に聞いたことすらない。そこに憧れることもなく、ただ与えられたスペースを歩き与えられた餌を食べ、決められた風景を夢に見る。時折眼も眩むばかりの恐怖に襲われ、飼育係を鼻に巻きつけ振り回してしまったこともある。君のあしたは区切られていて、運命は他者に委ねられている。それでも不満は膨らんでいく。何を望んでいるのかも自分ではわからない。アフリカのサバンナに放されたとしても決して生きては行けないけれど。
横断歩道を渡るとき、たくさんの象のこどもと眼があった。
豹
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