彼と彼女の日常/石田とわ
 
彼女が仕事に行ってから3時間しかたたない。
彼がこんなことを言うのは初めてだった。
        
「母さんに帰ってきてもらおうか?」
「そうしてもらってくれ」

わたしは震える手で電話をかけた。
        
「ただいま。ごめんね遅くなって」
彼女はタクシーを飛ばし、帰ると枕元でそう囁いた。
けれど彼は過呼吸をおこしもう返事をすることもできなかった。
            

やがて先生が来て彼に一本の注射を打ちその数時間後、息を引き取った。

彼女の帰りを待つかのような最期だった。

彼女は彼を愛おしげに撫で、「よくがんばったね」と微笑んだ。
わたし
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