彼と彼女とわたしの海/石田とわ
匹も釣れずに私たちの釣りは終わった。
彼は釣りがしたかったのだろうか、
それとも海が見たかったのだろうかと考える。
「体が冷えちゃった。帰ったらおでんにしない?」
「いいね。今夜はもう少し日本酒を飲みたいな」
彼が彼女を抱きよせる。
わたしはびっくりして彼と彼女を交互に見比べる。
そんなことをする彼を見たことがない。
彼女は微笑んで彼を見上げ、そして私に笑顔を向ける。
なんだか彼女を抱きよせた彼が寂しげに見えた。
彼女が夕食に作ったおでんは、丁寧に昆布で取った出汁が
大根によく沁みて、寒かった体を温めた。
ゆっくり日本酒を飲み、時々はんぺんを
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