彼と彼女とわたしの海/石田とわ
釣り糸を垂れるといっぱしの釣り人気分だ。
海は青くはなく、どんよりとした雲と同じ鈍色をしている。
彼が釣り糸を垂らすと彼女はボックスから日本酒を取り出し彼に手渡す。
わたしにはホットコーヒーだ。
日本酒を手に彼の隣りに座りこむ彼女。
釣竿は放り投げ出されている。
彼女は一言も口をきかない。
時たま餌を付け替え、あとは黙って海を見ている。
そして彼もまた黙っている。
竿の先がピクリと動き慌てて引き上げるがそこに魚の姿はなく
あるのは海藻ばかり。
何度かそれを繰り返し結局3時間あまりをそこで過ごし、
一匹も
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