彼と彼女とわたしの海/石田とわ
 
ろんよ」

Tシャツにセーターにと何枚も着こみながらはじめての釣りに
どんな魚が釣れるのだろうと期待を抱く。


その海は岩場でも砂浜でもない、遠くに工業地帯がみえる防波堤だった。
彼は釣り道具を、彼女は飲み物のはいったボックスを手に堤防沿いを歩く。
わたしは黙ってふたりのあとを空バケツを持ってついて行く。
             
なぜだか今日の彼と彼女がいつもと違って見える。
ふたりの後ろ姿を見ながらふとそんなことを思った。

風はまだ冷たいが真冬の寒さとはどこかがちがう。
あと一カ月もすれば桜が咲く、春はもうすぐそこまできているのだ。
            
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