彼と彼女とワインの夜/石田とわ
かけ起こそうとする前に「疲れたんだろう、寝かせておきなさい」
と声がかかる。
そのまま何も言わず立ち上がり寝室から毛布を持ってくると、そっと
彼女にきせかけ、また同じように本に目を戻す彼。
「なにかあったのかな」
小さな寝息をたてる顔は化粧が落ち、目のまわりが黒くなっている。
今夜のように他愛のない話ではしゃぐのはたいていなにかあった時なのだ。
「生きてればいろいろあるさ」
「なにがあったのか気にならないの?」
そう言うわたしを静かにみつめ微笑む。
「聞いて欲しいことがあれば話すだろう」
「そうだけど」
たしかに彼の言う通りなのだが何か腑に
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