やさしい世界/まーつん
 
きつけのジャズ喫茶で、マスターとだべりながら好きなCDを高価なオーディオにかけてもらうのはいい。どこか西の方にぶらりと出かけて、古都の街並みを一人で歩きまわるのもいい。歓楽街の片隅にある薄暗い店で、掘り出し物のエロDVDを探すのもいい。要するにそれが僕という人間なのだから。
 だが、パリッとしたスキーウェアを着て、あのコとどこかの雪山を滑降するだの、こぎれいなブランドショップが立ち並ぶこじゃれた通りを二人で歩くなんてのは、なんだか怖気づいてしまう。それは楽しいというより、どこか楽しい振りを演じさせられているような居心地の悪さを感じる。今までの僕は、そうしたやり方で人生を謳歌する人々を、うらやまし
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