木は孤独だろうか?/すみたに
ている目の前には崖が控えている、とかそういう不吉さではない。ただ、私は死んだ動物の眼を見た気分になったのだ。一人の男に後方から手を伸ばす男たち、笑い声と足音を巨大な虚空に響かせていて、その残響に目を光らせる者がいる。僅かな潤いさえも乾き、ただ乾燥し、鈍く光る彼らの姿。
ふと隣を見れば彼女が身悶えしている。彼女もまた姿勢の維持に辟易とし、いい加減身体を動かしたくてたまらないのだろう、息遣いも少し荒く、眼は反って不安げで、身体の一部を忙しく動かしているのは、尿意を催しているようにも思えるくらいだ。小声で臆することなく訊いてみた。
「トイレへ行きたいのかい?」
「ううん……」
顔を恥ずかしそ
[次のページ]
戻る 編 削 Point(0)