マリアと犬の夜/TAT
 
ペニスに走らせる。
 右手が風に乾くまでずっと彼を責めた。
 這うように鳴く声が細く弱くなり、細く強くなり、強く大きくなる。右手がやがて乾きほとんど反射で慌しく左手の三本に熱いつばを絡める。犬の赤い亀頭の肉に爪を立てないように。右と左が入れ替わったのを気取られないように。天国行きのマッサージを尚も続ける。
 穢れを振り払う死と、希望に満ちた新しい生。
 ジャンプするタナトス。
 空を駆けるシリウス。
 マリア・ローゼンタールは二月が来れば三十一歳になる。彼女はたまに遅刻するし映画の趣味が悪いし煙草も吸う。彼女の恋人は時代に負けて自然共闘主義者の烙印を押されたし、彼の子を堕胎した彼女もア
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