マリアと犬の夜/TAT
 
もアメリカとリシアの土は踏めない身だ。彼女は今、時給二千九百イエンぽっちのグリーボール場の受付として働いている。今はもうCRVからも監視されていない。エニグマロックを掛けてからメールを送信する必要もなくなった。
しじま。
 ガランゴロンと大きな音がしてマリアはふと囚われていた思いから気を戻した。付けっ放していたスカイテレビを見上げると新年の鐘を告げるニュースの映像が流れていた。今年も多くの参拝客が年初の祈願の為にとか何とか。月都ではすっかり恒例となった鏡写しが行われました。新年を迎えた今日地球では。
そう言えば今日は一月一日だった。
『、、。二千三百年だって。嘘みたい』
ためしにマリアはそう呟いてみた。勿論その声はどこにも届かなかった。明日も仕事だ。そうも呟いてみた。風が細く長く、その声に応じた。
(了)
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