婆ノ衣/服部 剛
花が 滲んで咲いた
水晶の目からは ぽろ ぽろり
肩を落として家に帰ると婆ちゃんは
芋のことなど気にもせず
「おやおや可愛そうに」と
小さい丸ひざに
皺(しわ)の指でつまんだ赤チンを塗りました
*
20年後・師走の夜
職場に辞表をだした「少女」は
うつむいたまま駅の改札を出て家路につく
幼き頃の故郷から遠く離れた空の下にも
川沿いの道はあり
水面には
冬の冴えた月が
ゆらゆら揺れておりました
背後から
いつかのポンコツ車が赤いちょうちんを灯して
ゆっくり ゆっくり 歩いてくる
「焼ぁ〜き芋ぉ〜、
石焼ぁ〜き芋、焼芋ぉ
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