婆ノ衣/服部 剛
芋ぉ〜」
「ほっかほかで
ほっくほくの、お芋だょ」
北風に はこばれる 懐かしい詩(うた)
(一人暮らしのアパートに帰った「少女」は
スーツを脱いで もんぺを着るだろう
重い腰を落としてこたつ布団に足を入れるだろう)
近所の八百屋で買ったみかんを
本棚に置いた婆ちゃんの写真に供える
「20年前」からみつめる
婆ちゃんのあったかいまなざしが
「だいじょうぶだょ」
と呟(つぶや)いて
疲れきってしぼんだ心の傷口に
赤チンを塗ってくれているような気がする
年の瀬の夜
* 初出 同人誌「母衣」・創刊号
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