午前八時三十五分、恋に落ちて(掌編小説)/そらの珊瑚
うが、窓硝子がびりりと震え、透明な空気が電気を帯びて共鳴したあの奇跡のような瞬間を、今でも ひそやかに思い出すことで、幸せな気持ちになるのです。
紛れもなくそれは恋。恋でありましょう。
春になったら駅の山手側に沿って植えられたソメイヨシノが咲くことでしょう。
散り始めたらその花びらを髪に飾るわたしを見てくださいますか?
午前八時三十五分、あなたにそれを見てもらいたくて、また今日も決まった道を走ります。
ささやかな恋ではあるけれど、それは私の背中をそっと押してくれる、大切な時間であるのです。
夏になったら命短い蝉とともにわたしも歌を唄いましょう。
秋になったらすすきの穂が手
[次のページ]
戻る 編 削 Point(5)