インド人 吉田 (後)/salco
め、散歩だけを日課にしている。生きている内だ、
と思っている。
この十年、葬儀で帰った祖国が二度遠のいた。父母のいない故郷は変わら
ず豊かで苛烈に美しく、変わらず子孫を住まわせたくない矛盾の腐臭に満ち
ていた。
胸を引っ掻く寂莫に打ち沈んでも詮方ない、自分もそんな齢になったとい
うだけのことだ。いずれこの地に骨を埋めるだろう。
遺灰は悠久のガンガーに、と迷わないではない。
まだそんな情景を想像する時がある。今のところはこの世で最も愛した者
らの傍に肉体の残滓を置いてもらいたいと、そんな気持の方が強いだけで、
もっと年を取ったなら変わって来るだろうか。
いや、頭が
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