リルケから若き中島敦への手紙/すみたに
病とはなにより自己への臆病だったのだ。
そしてエコーの風吹く中湖へ沈んでしまったナルキッソスのように、
虚像を愛する自己愛を肥大させていきながらも、
自然にあるべき非認知の自己愛を持っていないように、
彼も確固たる自尊心を持てずにいたのだろう。
そしてそれはまさに同情的眼差し故であった。彼は自分の詩に自信が持てなかった。
「あなたは御自身の詩がいいかどうかをお尋ねになる。あなたはお尋ねになる。前にはほかの人にお尋ねになった。あなたは雑誌に詩をお送りになる。ほかの詩と比べてごらんになる。そしてどこかの編集部があなたの御試作を返してきたからといって、自信をぐらつかせられ
[次のページ]
戻る 編 削 Point(0)