リルケから若き中島敦への手紙/すみたに
ぜなら彼は確かに、臆病には違いなかったからだ。
彼は人目を気にし、人の中へはいってゆきたいが故に、臆病を痛感していた。
自らの詩を読んでほしい、切磋琢磨したいという考えがあったにもかかわらず、
それは自分の詩がなんたるものかを、
彼自身は他人に委ねて知らないでいたかっただけだったのだ。
単純に嫌な予感におびえていた彼はまるでメランコリーで、
ちょっと思い逸らしたがために、
悪夢のの後甲虫に変身してしまったカフカのグレーゴルと同じように、
虎へとかわってしまったのだ。
自分の優秀さを自覚するが故に自分が可愛く、だから傷付けられなかった彼は、
自分の中に一
[次のページ]
戻る 編 削 Point(0)