リルケから若き中島敦への手紙/すみたに
った。李徴はやはりただならぬ人物であるだけに、
家を捨ててだが静かな夜――孤独――を求めて自然奥深くへと入っていった。
「あなたの生涯は、どんなに無関係に無意味に見える寸分に至るまで、すべてこの衝迫の表徴となり、照明とならなければなりません。それから今度は自然に近づいてください。 ・・・・・・・」
だが彼は求めてばかりいた。その衝動の意味をわかりもしないのに求め、
そこにあったはずの孤独を追い求め、
そこ=とおくにはるはずの自然より近くの自然を追い求め、
静かな夜、問うということはどういうことなのか、彼はそれを考えられなかった。
そして彼はとうとう龍を喰らうこ
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