安酒/深水遊脚
経ってしまったけれども、村上春樹さんが朝日新聞に寄せた「魂の行き来する道筋」という文章は、尖閣諸島を巡る中国の政策と反日感情の高まりに対抗するかたちで国民感情を扇動しようとしたりされたりすることを、安酒の酔いに喩えている。文章全体の主旨には全く異存はない。だから安酒の比喩に対する違和感を書き記すべきかどうか迷った。でも、村上春樹さんが安酒を昔あった粗悪品のイメージで語っているのではないかとの疑いを私は抱いている。
安酒を手にしてとにかく酔って嫌なことを忘れたい、酒の力を借りて心の底を晒せる人と徹底的に語り合いたい、という人たちはいまもいるだろう。そんな本気のやり取りに、気取りは邪魔になる。それ
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