手慰み/MOJO
 
かた片付くと、短編集を、活字を目で追うことに慣れてくると、長編小説を。 
 こうして、私は「文学」というものに触れたのである。だからといって、文学漬けになったりはしなかった。当時の私は、ロックバンドでベースを弾いていて、頭の中は常にバンドのことでいっぱいであった。バンドのことが頭にないとき、文芸書を広げたに過ぎなかった。
 ともあれ、吉行のエッセイはブックガイドとしても機能しており、いろいろな作家のいろいろな作品を読んだ。乱読であった。
 そんな「文学」とは付かず離れずの状態が十年ほど続いた。そのころ、音楽活動も尻すぼみになり、以前より積極的に文芸作品に親しむようになっていた。谷崎を読んだ。
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