真夏の雪、地蔵骨峠の夢/はるな
なさい。」
「雪が降っているのよ」
「ハイ・ヒールを履くか、さもなくば、何も履いてはならない。」
険悪な雰囲気を取り払うように、
「さあ、真夏の雪だよ!」
祖母が割って入って、そうして、わたしは素足にハイヒールを、わたしの家族たちはみな冬用の靴下とブーツを履き、車へ乗りこむ。
地蔵骨峠のふもとは、真夏の雪の日にだけ盛り上がる。
ひと夏に一度あるかないかの出番を待っている人々がいっせいに騒ぎ出すからだ。水着のような服を着て、おでんやきつねうどんを売り歩く。
「雑誌にのっていたお店よ」
と母が指差すあばらのような汚らしいそこはうどん屋で、けれどたしかに周りの店と比べてひときわ人だ
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