ドラディヤの錬銀術師/高原漣
 

生涯独身で旅に身をおいていた老人が、これほど他者に入れ込むのはたいへん珍しいことだったと、当時を知る金属商人デボチクは語った。

あるいはその比類なき素質に、気がついていたのであったろうか。

老練の術師は彼の移動工房でエスメラルダを手伝わせながら(「エメリーなどと呼んで実の孫のような可愛がりようだった」とはデボチクの談)街から街、港から港へと旅を続けた。

転機が訪れたのは廃火歴460年、ダァト・イグナイィ・ヨーグソトフ・ザナドゥ翁が南方大陸の北の玄関口であるナペナペの港町で亡くなった。

死因は老衰とも、夷人の船員に突き飛ばされたときの怪我がもとで衰弱死したとも、はたまた白昼
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