風呂場の鏡/桐ヶ谷忍
憧れ続けていたものであった。
だが、私の家は熱心な仏教信者であり、子供向け童話より先に、
子供向け仏教絵本を読まされた。
それは、自殺した人間は億劫(おくごう=永遠に等しい時間)の
無間地獄に堕とされる、と子供の目には恐ろしい絵柄と文章で
脅していた。
まだランドセルの方が身体より大きかった頃から、家の近くの
団地の最上階に毎日登っては、頑張ればなんとか乗り越えられる
鉄柵を両手で掴み、生きる地獄と、死後の地獄とを比較し、
結局泣きながら生きる地獄を選ばざるを得なかった。
そんな非現実的な、人間の考え出した「地獄」を、愚かしい事に
つい数年前まで私は信じて疑わずに生きてき
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