風呂場の鏡/桐ヶ谷忍
けていた者の習性で
相手の表情によって私も同様の表情を作る。
敵と認定されない為、相手に共感しているような演出をして
いるのだ。
両親にさえ、そういう態度で接する。
唯一、素顔を見せるのは夫にだけで、その夫も、相対している
時間は少ない。
無表情と言っても、去年まではそれでも穏やかな無表情だった。
その証拠に、よく人から道を聞かれたりした。
良く言えば話しかけやすい、悪く言えばつけ込みやすい顔を
していたのだろう。
だが、自殺をし損ねた現在の私の顔は、掴みどころがないような
固い無表情になってしまった。
道も聞かれなくなった。
今年の4月から、愛猫を引き取れて、
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