風呂場の鏡/桐ヶ谷忍
 
て、一緒に暮らしているのだけど
そういう意味では、夫がいない時間でも無表情ではなくなった。
私は本当にこの猫(リオと名づけたアメショの雄)を愛していて、
リオは寝て起きるとまず私の肘から下の腕をペロペロ舐め回す
習慣があったり、遊んで欲しい時には、私の腕に前足をちょこんと
乗っけてこちらをじっと見たりと、書けば枚挙にいとまがないくらい
可愛らしい仕草をする。
それで自然に私の顔もほころんだり、あるいは悪戯すれば怒ったり
頻繁に自然に表情が変わる。

けれど、リオが寝ている時や、お風呂など、ひとりになった時、
私の顔はやはり固い無表情なのだ。

鏡に映るこの女は、一体何を考えているのかさっぱり読めない
表情をしている。
私はその女の顔めがけてシャワーを浴びせ、なんとなく気鬱な気分で
お風呂から出た。
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