おふくろの風景/……とある蛙
 
刈り入れ後の田圃
夕暮れ時に老婆一人
誰かを呼んでいる。
腰は幾分曲り膝に手を当てて
前を向き誰かを呼んでいる
視線の先には白い犬が一匹
老婆に向かって息せき切って走っている
懸命に走って走って
舌を出して息を涸らして走っている
ところが、
老婆の手前で犬は忽然と消える

私は老婆に呼びかける
「おふくろ〜」っと
あたり一面季節外れの蝉の声
私の声は聞こえない。

母は小走りし足元を見る
田圃に張り巡らされた用水路
深い用水路の中
犬が鳴いている
その鳴き声は聞こえない
私には聞こえない
犬が鳴いているのは分かるのだが
その鳴き声は聞こえない


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