おふくろの風景/……とある蛙
 

犬は漸く這い上がり母の足下へ
足下で身震いして
水滴を夕暮れの空に
撒き散らす
あたり一面に撒き散らす。
季節は秋の筈だが
畦道の先の林から
蝉の声だけが聞こえ
犬に話しかける母の声は
聞こえない

満足げに頷く母は
犬にリードをつけて
ゆっくり歩き出す。
犬は振り返り振り返り
母の顔を見上げ
笑みを浮かべた母と犬は
そのまま畦道を歩き出す。
そのうち母と犬は影になり
畦道の先の林に消えてゆく

あたり一面青々した水田が
目の前に広がっている
夏の午後
その先にある三〇年前

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