春の追憶/小川 葉
ある。わたしは出かけた便を、すっと戻したつもりだが、つい、ぽちゃりと落としてしまった。
あなたは前にも一度、自己破産してますね。なのになんですか、また破産したいだなんて、そんなこと言って、ゆるされると思うんですか。あなたなに考えてるんですか。あれでもう、最後だといいましたよね、しかしこれはなんですか、まだあるんでしょう?ぜんぶはなしなさいよ、あんたいったい、なんなんですか、いくらあるんですか、ほらかくずに、ぜんぶだしなさいよ!
相談役なのか、取り立て役なのか、世間知らずのわたしにはよくわからないけれど、時々息を呑む、当事者の喉音が聞こえて、それ以外には罵倒しか聞こえなかった。春である。
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