祈り/瀬崎 虎彦
たしを動揺させたのではないことをはっきりとさせておく。理念においてではなく、死は当然訪れるものであることをわたしたちは実感している。肉を食らい、野菜を食らい、穀物をすり潰すわたしたちはそのことを、理解せずとも実感している。今生きていることはすべて死によってあがなわれている。だから、わたしは死を目撃して恐怖を覚えたのではないし、死んでいく生き物に対する共感で思考を停止させたわけでもない。
とてつもない暴力というのは偏在している。意識されるよりも、意識されないことにおいてその威力は強大であり、それが垣間見えるとわたしたちは戦慄せざるを得ないので、普段はそのことに気がつかない振りをしている。だか
[次のページ]
戻る 編 削 Point(1)