白象のいた港(掌編小説)/そらの珊瑚
 
聴く。
 なんでも「おるげる」とかいう南蛮渡来のものらしい。それはお絹ちゃんの宝物で、きれいな音が詰まってる箱なんだ。
 僕も時々耳にあてがってもらうけど、この世のものとは思えないようなきらきらした音だった。
 広い海をはるばる越えてやってきた不思議な木箱。
 白蝶貝の細工のついた美しいふた。
 そういえば、僕が生まれたのもこの海の向こうらしい。僕も南蛮渡来っていうことだね。

 ある日のこと。

 しばらく姿を見せないと思っていたお絹ちゃんが、浮かない顔で現れた。どうやら、縁談の話が進んでいるらしい。
 お絹ちゃんの家は代々この横浜村の名主で、ペリーも挨拶に訪れたという家柄。
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