サナトリウム(掌編小説)/そらの珊瑚
 
かできない大切な役目という気がしたものだった。あれを人は責任感と呼ぶか、それとも生きるためのレジスタンスと呼ぶのか。同志よ!
 君の横たわる膝のあたり、浴衣がはだけないよう紐で縛るのだ。
「寝乱れたまま、逝くのは嫌」
 愛する人の美意識の前に、君の希望を叶えざるを得なかった。きつくもなく、さりとてあまりゆるすぎず。
「あなたは世界一の紐結び職人ね。あなたに結んでもらうと、なんだか安眠できるのよ。明日、この紐をきっと自分でほどこうって希望が生まれるんです」
 あれは君の最後の優しさだったのかい。
 せめてもう一度、君に春を見せてあげたかった。

   ◇

「おじいちゃん、おじい
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