サナトリウム(掌編小説)/そらの珊瑚
 
じいちゃんってば」
 縁側の籐椅子でうたた寝をしていたようだ。身体に、過去へ旅した、かすかな揺れが残っている。
 目をゆっくり開けると、5歳になる孫が【夕暮れ色の襟巻き】を手にしている。
「おじいちゃんの大切なマフラー、お洗濯できましたよぉって、お母さんが」
「おお。ありがとう」

 君が守ってくれたおかげで、とてつもなく長生きをしたようだ。

「はい、爆弾、持ってきたよ」
「これ、またそんな物騒な呼び方して、と、お母さんにお目玉もらうぞ」
「うふふ、おじいちゃんの真似してるだけよ」

 瑞々しい蜜柑。まるで生きているかのように、かつても確かにそこにあったのだ。


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