サナトリウム(掌編小説)/そらの珊瑚
 

「あなたも秘密警察に追われるかもしれない。お帰りの際は充分お気をつけあそばして」
「ははは。君は小説の読み過ぎじゃないのか。確か丸善にそんな檸檬を置いたやつがいたよなあ」
 妖精のような君の笑い声はいつしか小さな咳となり、ひゅうひゅうと荒野を吹きぬける風を生んだ。
 ここは新鮮な風が生まれるサナトリウムなんだろう!
 新鮮な空気をくれるのではなかったのか! 
 僕は君の背中をさすりながら、名も知らぬレジスタンスとやらをを心の中で責めた。君の心の自由を勝ち取るためだったら、喜んで僕はその仲間になろう。

 病室を去るときの儀式をするのが心底嫌で、同時にこれをするのは僕だけにしかで
[次のページ]
戻る   Point(4)