サナトリウム(掌編小説)/そらの珊瑚
 
ねえ、一生大事にしてくれる人にだったらあげてもよくってよ。私がいなくなっても、襟巻きはその人のことをずっと温めてくれるの。私の代わりにその人を守ってくれるのよ」
 その襟巻きには見覚えがあった。君が【夕暮れ色のセーター】と呼んでいたお気に入りのセーターだ。今はその身をほどかれ、襟巻きに生まれ変わろうとしていた。こんな風に何ども生まれ変われたら、どんなにいいだろうか。人はそんな訳にはいかないだろうね。
 産みたての卵の黄身のような色とちょっとくすんだ赤煉瓦のような色の糸が撚ってあり、その景色は夕暮れといえないこともない。
「私がいなくなったら、こんなにひ弱でない、若くて、健康な人を見つけてくだ
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