サナトリウム(掌編小説)/そらの珊瑚
くださいね。大丈夫よ、私、妬いたりしないから。その代わり、この襟巻きはずっとお側に置いてくださいましね」
僕は弱虫だ。聞こえないふりをした。
「あっそうだ。今日ここへ来る電車の中でいいものをもらったよ」
ウールのコートのポケットから蜜柑を取り出して妻に手渡す。びいどろ細工のように向こうが透けてしまいそうな白い指だった。
「あのおばあさんはきっと蜜柑の行商の途中だったんだろう」
君はクスリと笑った。
「いいえ、その方はレジスタンスよ。あなたはまんまとその片棒を担がされたんだわ。その蜜柑は、その蜜柑はね、時限装置付きの小型爆弾に違いないわ」
眉をひそめて、内緒話をするように小
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