サナトリウム(掌編小説)/そらの珊瑚
 
りだ。正しい答えなどありはしないのに。

 向かいあっている座席の斜め前に座っているおばあさんがにこやかに話しかけてきた。頭に、手ぬぐいをかぶっている。白地に青く瓢箪(ひょうたん)の柄をのぞかせている。
「だんなさん、どちらへ行きなさるんで?」
「ええ、妻の見舞いに。サナトリウムに入院しているもので」
「そりゃあ、いけませんね。けど、ここの空気を吸ってたら、病気も良くなりますて。海から生まれてくる、おそろしく新鮮な空気だでね」
そう言っておばあさんは傍らの背負子(しょいこ)から蜜柑をひとつ取り出すと。僕に手渡した。
「どうぞ、晩生(おくて)蜜柑だ」
いかにも採
[次のページ]
戻る   Point(4)