酒呑説話。/愛心
雲。
もとい、頸をもたげた白い龍が居た。
大きく開いた尖った口元。
鋭い爪、牙。
澱んだ雨雲を手繰り寄せ、
薄く纏まったそれを口に運び、
喉を鳴らすと、旨そうに嚥下する。
真っ白なその頬に、
ほんのり赤みがさした。
龍はそれを何度も繰り返し、
雨雲を呑む度に、息を吐く。
ぼくは暑い風に
髪を、シャツを、頬を、指先を
何度も何度も、なぶられた。
これは夢か、現か、幻か。
けれど、なんと、
蠱惑的なんだろう。
ふ、と。
ぼくの視線に気づいたのか。
龍の動きが止まる。
言い様のない恐怖心に
急いでその場から逃げ
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