白い本/……とある蛙
 
これ見よがしの評論集、得体の知れない図鑑や書きかけの日記が乱雑に置かれている机。その一角に平積みされた白い本、その部屋にいないときも常に脳裏に浮かび、相変わらず自分の脳髄を鷲掴みにされている感覚を常に感じている。早晩白い本を開く予感はする。しかし、あの得体の知れない塔に引きずり込まれる感覚が恐ろしくてその誘惑に負けないでいた。
 この白い本をもって家に入ったとき部屋の隅で蹲っていた黒猫は目を見開いたまま視線を動かさなかった。何かを感じたのかも知れないが、猫は何も言わない。猫の韻文性と犬の散文性の微妙な違いを感じる。
 帰宅してからずっと白い本の前に佇むようになった。

 窓から満月の光が差
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