白い本/……とある蛙
息を吐き続けている。坂の途中の巨大な塔は彼らの牙城であり、ますます彼らの密度が高くなる。店を出てから坂を登ろうとしていたのだが、また神田神保町に向かって歩いている。S省堂書店のある駿河台下交差点を渡り、気づいたときにはまたあのY書林の古風な木枠のガラス戸の前に立っていた。
まだあの白い本が脳髄を鷲掴みしたまま自分を引きずり回している。
いろは四八文字順に作家が整理された書棚は やはり、黄色のリボンのようなネタ書きのようなものがぶら下がっている。『ん』の棚の前の低い台にその本は平積みされていた。白い背表紙には先ほどは読めなかったが、『…………伝』という部分だけが読み取れた。 『カンタ
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