白い本/……とある蛙
 
店内には寿司屋のネタ書きのようなものが書棚のここそこに 黄色のリボンのようにぶら下がり貼り付けられている。
 親父の歯槽膿漏の歯茎が笑った拍子に見えた。それは自分の朝の鏡の中と大差ないことを後頭部を夕陽に照らされながら感じた。北側からの夕陽を感じて。
 親父の歌は終わらない。買うのに恐怖を感じてそのまま後ずさりして店を出た。
  道の真上から太陽が照りつける。歩道に落とされた自分の影に向かって何事か叫んだ後、そのまま歩き出した。

 駅からの下り坂は若い派手な化粧の娘とその後ろにまとわり付く身体の線の細い男がやけに多い。彼らは一様にニヤついているが、目の奧はオドオドしていて、獣めいた息を
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